反目深まる日韓関係 一番得をするのは中国だ
トランプ政権という黒船が持つ効果はすさまじい。中国はG20で米国と妥協し、構造改革の約束を背負い込んだし、日本はNATOや豪州などにならって今後防衛費を増加させる見込みだ。安倍政権は豪州やインドなどとの防衛協力をはじめ、米国以外の国との連携や、米国を交えた多国間の協力を加速化させている。欧州では、マクロン大統領が米国の内向き化を意識してEUの統一軍の構想を訴えるなど、リーダーシップを発揮しようとしている。米国の孤立主義的傾向が明らかになったことで、自由主義諸国はこれまでとは違う自助努力や一段深いレベルでの連携を迫られている。米国が影響力を減退させた後の世界では、自由主義諸国間の連携は必要だ。中露の軍事大国はあらゆる分野に国家的介入を繰り返し、存在感を増している。中国が異質な資本主義を維持したまま、世界各地に浸透することによってもたらされる影響も大きい。そうした中では、当たり前の国際規範やルールをゆるがせにしないために、一国だけでなく、多数の国が同じ考えに立つ必要がある。
戦後秩序が西側先進国を利してきたという当たり前の事実に直面すれば、米国が同盟国にそろそろ負担の肩代わりを求めるロジックも理解できる。だからといって、先進国が自国の防衛をすべて自前で賄えるわけではない。米国の同盟国どうしが安全保障分野での協力を高めることで、費用を節約し、効率性を高め、抑止力を高めていくというのが当然の流れとなる。
しかし、北東アジアでは、安全保障協力が必ずしも進んでいない。日韓という米国にとって重要な同盟国同士が互いに反目を深めつつあるからだ。
日韓関係はどうしてこれほど摩擦が大きいのか。進歩派(左派)の文在寅政権の誕生が原因だと思う人もいるかもしれない。けれども、歴史を振り返ってみれば必ずしもそうとは言えない。日本との関係が好転したのは金大中政権下だった。民主化後に成立した保守政権はいずれも、結局は日本との対立を深めてしまった。もちろん、朴槿恵政権では慰安婦合意が結ばれた。
しかし、筆者が当初指摘した通り、この合意は韓国の対応に対する日本側の期待値をあげてしまうことで、日韓関係を害した可能性さえあるのだ。そのとき筆者は、これは政府間の合意であり、韓国国民一人一人や民間団体、あるいは韓国系米国人などの行動を拘束するものではないと述べた。実際、行政府の判断のみで事が収まるわけではない。それは、文在寅政権が慰安婦合意を事実上一方的に破棄したことに加え、韓国最高裁が今回の徴用工判決を下したことからも明らかだ。
韓国で燃え続ける徴用工や慰安婦に関する問題の所在は必ずしも日本の態度にあるのではない。心を尽くした謝罪はすでにしているからだ。戦時中、亡命政府のようなものであった大韓民国臨時政府を正式の政府と位置づけて現在の共和国への連続性を主張する韓国の現行憲法の骨格や、今回の判決のような判断を生む国内政治イデオロギーに、むしろ摩擦の引き金があるとみていいだろう。である以上は、官僚答弁に終始するならまだしも、さらなるファイティングポーズをとって刺激することはマイナスしか生まない。日韓関係を損なうことで損をするのは、貿易構造を見ても、地政学的にも韓国の方なのであって、日本は焦る立場にはいない。
言ってみれば、もはや国家間の平和を気にしなくてよいほどに平和的な関係だからこそ、外交関係を犠牲にしてまでもナショナリズムを押し通せるという逆説的な構造がここには窺える。宗主国が過去の植民地統治や併合の賠償を求められる動きは、何も日本に対する請求に限ったものではない。そうした動きは世界的な人権意識の高まりによるものでもあると同時に、高度に政治的な動きでもあることは間違いない。対外交流の基礎を提供してきた玉虫色的な外交解決を否定するようなナショナリズムが韓国に存在する限り、この問題は消えないだろう。